ネタバレあります。
アントニオ・バンデラスの映画だと銘打っているが、実はバンデラスの映画ではない。だが、観続けて観終わると、一周回ってバンデラスの映画だったな、となる。それが私が昔知っていたバンデラスかどうかは別として。ただ、相変わらずカッコいい男の設定である事は間違いない。
しかし、これはバンデラスのようなカッコいい男が、アクションの限りを尽くして深謀に立ち向かうという話ではない。何ならバンデラスは前半の割と早い内に殺されてしまう。冒頭にカッコよさを見せつけて、そこから後は思い出の中のバンデラスだ。だが、それが思いがけず良かったし、心に傷を持った女性の再生・成長物語を彩るのにこのようなバンデラスはあまりにも相応しい。
ミケル・タリーニ(アントニオ・バンディラス)の弟子となって、探偵業の全てを叩き込まれた女(アリス・イヴ)は、アイルランドの路地裏で何者かに滅多刺しにされて殺されたミケル・タリーニの捜査を引き継ぐ。それはミケル・タリーニを殺した殺人犯の犯人探しであると同時に、彼が追っていた大きな事件の解明も含んでいた。大きな事件…唾棄すべき事件。そこには少年少女人身売買の闇が横たわっていた。
彼女本人も、幼少期から家庭内で性被害を受けていた。その生い立ちとそれが及ぼす精神の構造とが、ミケル・タリーニを殺した女に対するシンクロニシティを産み出す。
捜査する側の女とされる側の女。境遇を鑑みると犯人の女は完全な悪ではない。それを産み出した根源的な悪がいるからだ。「間違えて殺しちゃってごめん」と言われていやいや間違いで済むかよ!と思いつつのラスト近くではあるが、同情心を禁じる事ができようか。
観終わって改めて感じたのだが、本作は構成から何から極めて小説的。小説を忠実に映像化したらこうなるのだろうな、という感じ。ミケル・タリーニとその後弟子となる彼女の2人の出会いの前段や、挿入される回想シーン、徐々に狭まっていく真相解明の輪…。小説を読むようにしっくりとその世界に入り込む事ができた。
それにしても…少年少女人身売買の作品を今年で3年連続毎年1回は観ていることになる。世界には人間を装った悪魔というものが存在するのだと思うと暗澹たる気持ちになる。
未体験ゾーンの映画たち2025 で鑑賞。