藤井道人監督のことはとても評価しているから(偉そうですみません)少し辛口になってしまうかもしれない。
面白かったと思う。横浜流星を始めとした役者陣もとても良かった。横浜流星と山田孝之(もうひとり加えれば吉岡里帆)以外の共演者は常に主役級を張るような俳優ではないかもしれないけれど、それなりに豪華で堅実だった。
「堅実」という言葉を期せずして書いたが、あ…そうなのかも…と思い当たる。本作は藤井道人監督にしては「堅実」なのだ。それがともすると平板になってしまったという印象だ。原作に忠実なのだろうなぁ(もちろんディテールは違う部分もあるだろうけれど)、ともすると原作を追っているだけなのではないかなぁ、と思わせる構成。演出も、例えば同監督の「デイアンドナイト」や「ヤクザと家族 The Family」の時のような、所どころごつごつとして棘があって…というような感じがない。本作は、そりゃそうだろう、こんな風に脱獄したんならそういう展開でそういう振る舞いだよね、と、想像に足るものであり、それ以上でもそれ以下でもない。
つまり、センセーショナルな題材で、役者も頑張っていたし、それなりに面白くはあったけれど、胸に迫るもののがそれほど感じられなかったということだ。
だが、恐らくこれが商業映画としての成功の道なのだと思う。またまた偉そうですみません。本作は公開後すぐに上位ランキングに登場し(映画.com調べでは登場週ランキング第1位)、藤井道人監督はこれで押しも押されぬヒットメーカーになったということなのだ。「デイアンドナイト」で衝撃を受け、「ヤクザと家族 The Family」で確信を持った私としては大変喜ばしいことである。喜ばしいことなのであるが、一方で物足りないと思っている自分がいる。
こんなさらっとした平板な感じじゃあないよね、藤井道人監督の作る作品は…?!と思ってしまうのだ。
主要シーン(刑務所・デイケア施設・アパート)は富山でロケをしているそうだ。最初の潜伏先となる建設現場とその飯場等はとてもリアルで良いのだが、特にデイケア施設とそこに行く道程…富山の雪景色…は心に残る美しさである。