ツウぶっているつもりはないが、A24らしい作品だった。好きか嫌いかを問われたら、微妙な所ではある。A24テイストは嫌いじゃないんだけど、「ミッドサマー」の衝撃がなかなか越えられなくて。とはいえニコラス・ケイジが主演の作品に嫌いという選択肢はあり得ないので、割と楽しんで観ることができた。
以下少々ネタバレ。
しがない大学教授のポール・マシューズ(ニコラス・ケイジ)は、妻と娘2人とつつましく暮らしていた。きっかけは下の娘が見た夢の話であった。彼女の夢にはいつも父であるポールが出てくるのだが、夢の中でどんなにピンチになっても父は助けもせず何もしてくれない。ただそこに居るだけなのである。そんなこともあるのか、と、子供の夢の中での話にそれ程重大なことは感じられなかった。
だが、ポールは何故か娘の夢の中だけでなく、沢山の人々の夢の中に出没するようになった。そこでもポールは何もしない。ただそこに居るだけである。しかし多くの人の夢の中に同じ人間が同じように何もせず出てくることに、世間は色めき立った。ポールは一躍有名人となり、閑古鳥が鳴いていた大学の講義も連日満員、代理店から企画のオファーが来るようになる。
これまで経験したことのない、人々から注目される日々。それまでのポールといえば、自身の研究成果を元同僚に先に著書にされてしまったり、仲間内のホームパーティーにも呼ばれなかったり、とにかく要領が悪く面白味のない人物だったのである。その性格が特に変わったということでもないのに、多くの人たちの夢の中に一斉に出てきたことによって、何やら興味深い特徴のある男ということに評価が変わったのだ。
だが、ある時を境に、それまで夢の中でただそこに居ただけのポールが相手に危害を加えるようになる。それもかなり手酷い暴力だ。夢の中とはいえ、ポールに苦しめられる人々が続出し、ポールは糾弾され潮が引くように周囲から人がいなくなった。大学の講義もできなくなり、娘の学芸会でさえ出禁となった。妻からも離別を言い渡される。一体ポールはどうすれば、どこに居場所を探せばいいのか…。
かなり無茶苦茶な話ではある。A24らしいよね、多分。けれど少しだけ悲しい。それは、要領が悪く面白味のないポールという男は、そんな一見つまらない生活であるにも関わらず、妻と娘をとても大切にしていてそのことだけで人生はかなり充足していたのだが、それなのに自分の力の及ばない他人の夢の中の出来事のせいで、唯一の拠り所を失ってしまうという点である。無茶苦茶な話なのに、人生は理不尽である、望む望まないに関わらず身の丈に合った生活こそが善、ということを示していたのなら、なかなかのもの。いや恐らくそんな深い話ではないはずなのだが。
製作に「ミッドサマー」のアリ・アスターが参加している。