史実を元にしたフィクション。
フィクションではあるが(韓国国民なら)誰でも知っている直近の史実である。こういう作品で興味深いのは分析を行う時代ごとに史実に評価が分かれる所なのであるが、本作での登場人物に対する評価は、今日に至るまで一貫しているように思える。ここでは全斗換に対する評価ということである。ファン・ジョンミン扮する全斗換元大統領は、本作では押しの強い悪役に描かれている。そして、朴正煕大統領暗殺事件以降、全斗換による軍事反乱による政権掌握、その後まで続く政権の中枢における不正や汚職の基となる強権政治に対して、現在でも韓国国民は許していないのだと感じられる。
作品自体は、ファン・ジョンミンとチョン・ウソンの演技合戦とも見て取れる。個人的な感想としては、これはファン・ジョンミンの圧勝だな。しかし、チョン・ウソンがびっくりするほど軍服の似合う外見に加え、無欲で自身の職務を全うすることだけを心に誓っているキャラクター付けをされているため、かなりの部分でチョン・ウソンに肩入れしてしまうのも、鑑賞時の事実である。そしてそれは恐らく制作サイドの意図なのであろう。
「ソウルの春」は、よく知られている「アラブの春」や「プラハの春」のように、民主化や自由化が台頭する事象の代名詞として名付けられているが、歴史的にはその各々の「春」の出自と背景は異なっており、いずれも短命であることが示されている。これらの時代が捨て石にならないように…という意図があるなら、本作での偽悪的なファン・ジョンミンの描き方は意味のあるものかもしれない。