最初のシーンを見た時、ジャン・ユー(呉鎮宇/フランシス・ン)老けたなぁ、と思った。数年前、来日した彼を生で見た時にはそう思わなかったので、特殊メイクなのだと思う。だが、作品を見続ける内に、見慣れたあのジャン・ユーの顔になっていく。これはもしかしたら…数十年振りに会った同級生に対して心の中で「老けたな」と思っても(向こうも同じように思っていることが前提で)、おしゃべりしたりしている内に見慣れた姿になっていくあの感じと同じかもしれない。
そんな風な、懐かしいような気持ちと心の温かみと、哀切を感じた作品だった。
香港の街は今、色々な所で当局からの締め付けが厳しくなっていると聞く。これはそれに類する話ではないにしても、「街を綺麗にする」目的の為に、当局が街に巣食うホームレスを一掃したいと目論んでいる背景が見て取れる。
刑務所を出たばかりのファイ(フランシス・ン)は、受刑前に居たホームレスの溜まり場に舞い戻る。出所祝いとばかりに、仲間がくれたヤクを決め、恍惚となるファイ。そこに当局が予告なくやって来て、彼らの持ち物や住んでいる場所を撤収してしまう。
予告無しの撤去は違法だと、ケースワーカーの助けも借りて、ファイたちは当局に抗議を行う。撤収した持ち物を返す事を訴えたのだ。何度かのやり取りを経て、当局は謝罪はしないものの、持ち物を返し、今後は規約通りに予告を行うことを約束した。そして幾ばくかの和解金を支払うと。
他の仲間たちはそれで納得したようだが、ファイは違った。謝罪が無いなんて。だがそれ以上を求めると裁判になる。それは双方にとってあまり良い結果を生まないだろう。撤去以降、別の場所に新しく「棲家」を作り、これまでの生活を続けていたファイと仲間との間にわだかまりが生まれてくる。
仲間。ラムじい、ダイセン、ランとチャンの姉妹…それに、どこからともなく現れた失語症の青年モク。それぞれにそれぞれの過去と人生がある。ファイのいるある種のコミュニティは、彼らホームレスと共に構成されていた。時は緩やかに流れ、時にはモクの吹くハーモニカに癒され…だが、職もなく定住場所もなく、麻薬に溺れる日々は変わらない。そんな彼らの日常を映し出す風景は、侘しさを感じさせる。
彼らの現在地と未来は、自業自得だと思うこともあるだろう。僅かな金を手に入れたところでそれをほとんど麻薬に費やし、その日暮らしをしているのだから。だが、何がきっかけでそうなってしまうのか、自分だけはそうならないのかは誰にも判らない。
作品チラシに
「暗くなる前に、家に帰ろう。
道があるなら、家に帰りたい。」
と書かれていたが、
帰りたい場所と本当に帰る場所は、人それぞれなのである。
(2023年アジア映画)