コンペティション作品。中国映画。原題は「草木人間」。
コンペティション作品の中で本作は無冠であった。これが本当に信じられない。素晴らしい作品だったと思うのに。西湖のそばにある茶畑の…茶畑と共にその場所に至るまでの山道の木々や自然も含めての…美し過ぎる描写と、都会での狂った生活との対比、天井を知らない承認欲求のなれの果て、パンドラの箱の中の希望のようにわずかながらでも残っていた親子の情愛、それら全てを見せてくれた。ヒロインのジアン・チンチンの演技は圧巻。
夢を見たの。
朝起きたらメールがきて、フーシャンが帰ってきて、でももう戻らないと。…彼は10年以上前にどこか遠くで死んだと思っていたよ。
夜道に蛇が這う。
山道を登る沢山の人々の列。夜明けの山登りである。社長が言うには、これで山を起こすのだ、と。冬の間ずっと眠っていた山を。そしてさあ、茶摘みを始めよう。「新芽よ伸びろ」「新芽よ伸びろ」と唱え、やがてそれは叫びになる。
ふもとの村では、ムーリェンが配信用の原稿をチェンに手渡していた。チェンはこの村での茶作りの工程を生配信している。ムーリェンはそのまま自転車で、茶摘みをしている母のところへ手伝いに行く。
道中、森に寝転んで虫を観察する。ここでは、生まれた時に木を選んで、死ぬとその木を切り倒す。もうずっと行方がわからない父の木を見つけられるか?…見つけられる!ムーリェンが杭州に留まっているのはまだ父の木があるからだ。木が立っているなら父さんを探し出せると信じている。もう死んだなんて嘘だ。
父は、リャンという人と貨物船を走らせていた、と耳の不自由な叔父から聞いた。
茶畑で茶摘みをしている母の元に到着する。母は言う。杭州に留まらなくてもいい。就職して結婚しなさい。母はチェンさんの家に住み込みでも良いのだから。
そう言いながら、探ってくる。お前はチェンさんのことをどう思っている?例えばお前の父親になるとか…。ムーリェンは母を遮って言う。僕はもう大人だ。母さんを養える。
母タイホアは茶摘みの時期は、女だけで山の茶畑のそばに住み込みをしていた。行方知れずの夫は実は少年好きだったのよ、などと茶摘みをしながらおしゃべりをしている。ここでは女だけの暮らしの中、あけすけな話も頻繁にされる。下着を取った取られたなどのことも起こる。一人の同僚が、足に貼る膏薬のようなものを勧めている。すごく良くて、なんにでも効くのだと。弟がこれでビジネスをやっているから大量に手に入る、と仲間に配る。
ムーリェンは船着き場に行く。父を知っているという人からある物を受け取る。君の誕生日に毎年彫っていたのだ、と。それは蓮の花の木彫りであった。だから父を待ってみる、とムーリェンはさらに決意を固める。ムーリェンという名は蓮の花が由来だ。
タイホアとは苔の花という意味。タイホアは、茶畑の仕事を通じてチェンと付き合っていた。お互いに想っているのだが、チェンの母親に大反対されて遂には住み込みの家を追い出される。
所在がなくなったタイホアを救ってくれたのは膏薬を配っていた同僚だった。一緒に長距離バスに乗る。同じ目的を持った人が同じ場所に連れて行かれる。ガイドのような若い女が、みんなの意識を高揚させるアナウンスを繰り返す。
着いた場所はとあるビジネス集会。「バタフライ社」という会社の集会だ。全員でお揃いのTシャツを着て、ビジネストークに熱狂する。同僚が、成功した弟の写真を見せてくれる。ここでは「人脈」が全て。そう、ここはマルチビジネスの勧誘会場だったのだ。ビジネスの説明に対し誰かが、これはネズミ講なのではないか?と問い質すと、集中砲火を浴びる。悪徳商法だ!と叫ぶ男もいた。だが、バタフライ社は極めて冷静である。成功したくないなら、どうぞ出て行け。
そしてパーティーが開かれる。バタフライ社賞賛に満ちた狂乱のパーティーである。タイホアはどんどん洗脳されていく。周りの人間たちも次々に契約を結んでいく。
一方で杭州に残されたムーリェンは、就職していた。だが、そこは悪徳商法の会社であった。年寄りに優しく親切にして、金を巻き上げるのだ。依頼をなんでもきいてあげて、話し相手になってあげて、法外な料金を取る。年寄りの家族がやってきて、年金暮らしの年寄りを騙すな!とムーリェンに罵声を浴びせる。
バタフライ社のパーティーでは、華やかで高揚した雰囲気の中、タイホアはどんどん圧倒されていく。そしてどんどん傾倒していく。だが実際には、「仲間、シェア、購入」しか理解できなかった。理解できないままの人々を、バタフライ社の幹部はぐいぐいと引き入れていく。みんなが商品をどんどん買っていく。タイホアはとりあえず1セット買った。ここまではまだ慎重なタイホアであったが、会場に集まった人々がそれぞれの生い立ちやこれからの希望を語るのを聞いて、その身の上話を聞くうちに感動していく。
ムーリェンの勤めていた会社は結局倒産してしまった。仕事探しをするムーリェン。母の所を訪ねて行った。母が傾倒しているバタフライ社は、表向きは販売会社でも実はマルチ商法をやっていることを調べてきていた。久し振りに会った母は化粧も濃く、何かギラギラしていて、バタフライ社に薫陶を受けて全く息子の話を聞かない。それどころか、ムーリェンには黙って田舎にある家を売って、大量の商品を購入していたのだ。母が借りたアパートの一室に山積みにされた商品の段ボール箱を見て、ムーリェンは愕然とする。詐欺だ!と叫ぶ。そんなムーリェンをタイホアはバタフライ社の集会に連れて行く。それは客船の中で行われていた。素人を隔離する場所として好都合ということだろう。
口角泡を飛ばしてセールストークをする母も含めたバタフライ社の面々。売り口上というのは大袈裟なものだ、と恥ずかしがったり悪びれてりする様子は一切無い。母のあの口ぶり…憑りつかれている。ムーリェンはこっそり会場を抜け出し、警察に電話をかける。船に水上警察がやってくる。母さんがやっているのはマルチ商法だ。お願いだから信じて。だが、タイホアはムーリェンに怒りを爆発させる。実の母親を警察に突き出すなんて!
証拠不十分で警察を釈放されたタイホアをムーリェンは迎えに行く。故郷のチェンも一緒である。そぼ降る雨。ムーリェンは母に問う。全く稼げなくても母さんは幸せなの?タイホアは答える。そうだとしても私は幸せなの。ものすごく幸せなのよ。目を覚まして、母さん、目を覚ましてよ!…だがタイホアは言う。長年もかかってようやく何かをするべき人になれた。お前たちにわかる?お金で幸せを買ったの。何が悪い?
マルチ商法の会場で、ムーリェンが母に謝る場が設けられた。ムーリェンは研修に参加させられる。新興宗教のような洗脳の場所だ。父の木を切り倒せ。父の名を消せ。故郷に戻ったら旧友を勧誘するんだ。
とあるホテルで大々的にパーティーが開かれた。優秀な勧誘者はパーティー会場で表彰される。一種のステイタスだ。みんなが狂気に満ちている。さらに突き詰めていくとバタフライ社の上層部になれると信じている。タイホアがここに来る時にバスの中で皆を先導していた女が、今日こそ幹部に昇進できると、意気揚々と幹部が集まる会議室へ向かう。だが、彼女は利用されていただけであった。
ムーリェンは、彼女のバッグに盗聴器を仕掛けていた。幹部と、利用されただけだと判った彼女が言い争うさま、また幹部がバタフライ社のビジネスをマルチ商法だと認め愚者を騙し続けろという指示を出すさまが録音されていた。その録音を流出させる。
警察が介入して現場は大混乱となった。テレビやラジオから、マルチ商法摘発のニュースが流れる。タイホアの茶畑の同僚は、まさかと思った。自分が信じてやってきたこと、そして友人までをも巻き込んだことが今や糾弾されている。慌てて弟の所に行き問い質すが、どうやら弟は何もかも知っていたようで煮え切らない。マルチ商法だ、詐欺だ、と言ったところで、相手が自分だけ取り分を取るつもりだと思われるだけだろう、と。
タイホアは思う。探していれば、いつかは本当の自分に出会える。いつの間にか彼女の洋服の背中に芋虫が張り付いている。それを見て笑う。狂気の笑いだ。そしてタイホアは、自分がいるホテルの一室の窓から人が飛び降りるのを目撃した。それは弟の態度に絶望した彼女の同僚だった。
ホテルから次々と幹部が逮捕される。バタフライ社は終わったのだ。
タイホアは廃人同様となる。ムーリェンは母の介護に尽力する。おかゆを食べさせるが、タイホアはムーリェンの顔にそれを吐き出す。
静かに茶饅頭を作るムーリェン。母は迷子かもしれない。今こそ助けねば。チェンに伝える。母を山に連れて行きたい。チェンに正気に戻ると思うか?と聞かれても、試したい、と答える。そして母をおぶって故郷の山を登る。山を起こした母を、今度は山が起こすかもしれない。母はムーリェンの背で眠っている。険しい山道を母をおぶって登りながら、ムーリェンは躓いて指を怪我する。それでも母は目覚めない。
ムーリェンの独白。父の木の所は通り過ぎて僕の木の所まで行った。そして何故か眠ってしまった。地獄で女の人が泣いていて、それを母かと思った。僕と母のことも守っている、星、大地、森。僕らは守られながら生きている。
目覚めると母がいない。鍾乳洞まで探しに行く。だが足を取られてしまった。水底に母がいるのを見たような気がする。
しばらくして、母は浅瀬で目覚めた。それは、狂気の取れた穏やかな顔だった。ムーリェンも岸に上がることができた。
ヘドロの中でも咲く花が、蓮の花なのだ。
その後、母はチェンと慎ましく暮らしている。ムーリェンと3人で会うこともある。ムーリェンは、父の遺した木彫りの蓮の花を受け取った場所を散策する。その付近にあったお寺を詣でると、中から住職が出てきてムーリェンを認め、ちょっと待ってくれ、渡したいものがある、と言う。様々に思いを巡らせながら、ムーリェンは待つ。
Q&Aは、グー・シャオガン監督、息子ムーリェン役のウー・レイ、母タイホア役のジャン・チンチン、バタフライ社の先導者ワンチン役のワン・ジアジア、タイホアの同僚の弟でバタフライ社の幹部のドン・ワンディ役のイェン・ナンが登壇。
Q:前作との変化について。
A:(監督)1作目とはテーマもスタイルもガラッと変えている。特にこのマルチ商法というものの一面を描くにあたっては、自分の親戚の中でもそういうことに関わっている人がいて、取材の時に色々資料を集めたが、色々と調べていけばいくほど、非常に荒唐無稽なことがこの社会の中で起こっているということがよく判ってきた。そしてその取材を重ねて内容を豊かにしていった。どのようにこのマルチ商法を描くのかということも非常に重要だった。前作とは全く違うものを狙って訳だが、山水画のような雰囲気を残しつつ、社会のもう一つの面を描いていくということで、どういう撮り方をするのかというのが私にとって挑戦だった。マルチ商法の実態を描きつつも、社会で生きる意味を人々が見い出せるようにしたいと思った。詐欺に遭いながらも一生懸命生きているという庶民の姿を、視野を広げて客観的に見ていくことが必要だと思った。プロの俳優を出すことによって、判りやすいものにしたかった。
もうひとつ重要なのは、中国の伝説。木蓮母を救う。悪いことをして地獄に落ちてしまった母親を木蓮が助け出すという話。地獄=マルチ商法と設定した。人間、地獄、天国を描くにあたってそういう伝説の世界としっかりと結びつける必要があった。
Q:目に見えないものに対する洞察が優れていると思うが、影響を受けたものは?
A:(監督)ホー・シャオシェン監督や是枝監督とか。
Q:役作りについて。
A:(ジャン・チンチン)脚本が土壌と同じように養分を吸ってそこから芽生えていく、という読み方をした。素晴らしい監督に恵まれ、自由に安全な環境のもと、自分が持っているものを全開できる。全身全霊を賭けてできた。息子役のウー・レイとの共演は、神様からの素敵なプレゼントのよう。母子の役を自然に演じられた。たくさんのエネルギーをもらった。共演者に恵まれた。
(ウー・レイ)脚本が十分に素晴らしかったので、脚本に何が書かれているかを忠実に演じた。監督の言うことを信じる。物語を信じる。演技の細かい要求というよりは、自由にやらせてくれた。存分にリラックスできた。
A:(ワン・ジアジア)こんな悪い女性を演じられるかしらはテーマ演じきれるとしたら観客にとってとても良いのでは、と感じた。ワールドプレミアとしてこれを観た。監督が描きたい哲学的なこと、音楽、人物、物語がとても好き。
A:(イェン・ナン)もう一人の悪人ですが…(笑)。私にとって特別な映画。ワールドプレミアを観てから今日まで感動が消えず、頭の中に鳴り響いている。二日酔いのようだ。
Q:母は苔の花、息子は蓮の花、そこに何か意味は?
A:(監督)苔の花は全く目立たない所に小さく咲く花。ムーリェンもタイホンも両方とも植物の名前から取っている。

(2023年アジア映画)
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