黒社会vs香港警察、と言えば潜入捜査官である。これは「前提」とも「決定事項」とも言っていい。
中国返還前の1997年、香港が舞台。黒社会のとある組のボスであるチョン(サイモン・ヤム)には、契りを交わした近親の部下が4人いた。その内の一人ロク(リッチー・レン)は、1994年の暴動の首謀者として収監されており、3年の刑期を終えて出所したばかりであった。彼が出所して以降、商売の内容、取引、跡目争い等々を巡ってシマは不穏な状況となってくる。
面白かったし、キャストの豪華さを鑑みれば、傑作と言えるかもしれない。だが、名作ではない。哀愁や余韻が無いからだ。例えば「インファナル・アフェア」のような。…というか、ちょっと詰め込み過ぎなんだよなぁ、尺の割には。
冒頭で茶化すように書いてしまったが、黒社会vs香港警察=潜入捜査官の存在…といった、この手の作品の「常識」を持っていないとついていけないような感じ。だからといって、香港映画にそれ程通じていない人でも理解できないかというとそんなことはない。以下の点を踏まえていれば無問題だ(ただし、香港映画にそれ程通じていない人が、このキャスト陣を「サモ・ハンまで出て、おおっ、豪華!」と思ってそこだけでもう全てを許してしまうかというとそれはまた別の話)。
踏まえておけばオッケーな点。
◉黒社会の中には最低でも1人は潜入捜査官がいる。
◉その潜入捜査官の身元を保証する警察幹部は必ず死ぬ。
◉義兄弟の契りを交わしていても跡目争いは揉めに揉める。
◉麻薬の取引先は必ずタイ。そしてタイ人は信用してはいけない。
◉黒幕(あるいは最高に嫌なやつ)は大抵イギリス人。
◉女はみんな壁の花以下の存在。
とはいえ、こんな風に踏まえた上でも、そして香港映画の黒社会物を見慣れた私でも、ちょっと展開に躊躇する事は多々あった。えっ?あの人もこの人も実は潜入捜査官?とか、いやいやあんた(サイモン・ヤムの事)薬の取引はもうやらないって言ったじゃん、とか、跡目争いのために誰が誰を直接殺したのか混乱したり、あの自称バリスタの女に渡した書類って結局何だったの?(確か伏線回収されてないはず)とか。もっと細かい話をすれば、サイモン・ヤムのギターって燃えたんじゃないの?とか。いや、そんな枝葉末節な事はどーでもいーのだ。正に、考えるな感じろ!なのである。
それと、これは香港ではなく北京で制作されてるんだね。そこに今年の初めに観た「カンフースタントマン」で知った、カンフースタントは中国本土にどんどん流出している、という話の整合性を感じたり、イギリス統治下を殊更イギリス人を悪者にして描いているなぁ、と思わされたり。
だが、繰り返しになるが、哀愁や余韻が無いため、ただ怒涛のような展開を見守るだけになってしまった。私のような香港黒社会映画が大好きな者でさえ、「ほぇ〜…香港のスター達はどうしてこうも黒社会が似合うんだろう…」と思うに留まるのである。
未体験ゾーンの映画たち2023で鑑賞。