きちんとした作品。
メディアに関わる有力者がセクシャルハラスメントで糾弾される映画は、2019年に「スキャンダル」という作品があった。当時ロードショーで鑑賞したその作品について、主演級の女性キャスターを演じる女優たちの顔つきがみんな同じに見えて愕然としたものだ。ハラスメントを受ける人たちはあまりのことに没個性の顔になってしまうのか、と訝ってしまう程だった。
だが本作は違う。ミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)にしてもジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)にしても、とても個性豊かだ。過去にハラスメントを受けて、示談を呑まざるを得なかった女性達も同じような顔なんかしていない。この点が、ハリウッドという特殊な業界で起こった出来事を他人事だと思わせない力の源になる。
ミーガンもジョディもニューヨークタイムズの記者であって、かつ家庭を持ち子供もいる。その生活の描写も良い。これまで産後鬱をきちんと扱った作品があまり無い中で、ミーガンの産後鬱の事が描かれていたのは印象に残った。
いわゆる足で稼ぐ取材方法も好ましい。そういう地道な取材を経て、職場仲間と意見を戦わせ、集大成の記事を作る。彼女たちは出産や育児を経て、家庭を生きると共に仕事にも生きる。それが特別な事でないような描き方をされているのがとても良い。
被害者の方も同じ顔つきをしていない。同じ顔を持たないそれぞれの個性。それぞれがそれぞれの生活を持ち…戦う事を諦めたり、忘れようと努めたり、常に今の生活に影を落とすそれは本来あってはならない事なのだ。セクシャルハラスメントの体験前であろうと体験後であろうと、ひたむきに生きる事を誰も奪えない。奪えないはずなのに…。セクシャルハラスメントはレイプと似て精神の殺人なのである。
2020年に収監されたワインスタインの刑期は23年。残りの人生を刑務所で過ごすことは確実だ。これを長いと見るかそうでもないと思うか。何人もの人生を壊した事を考えると、刑期に人数分掛けても良いと思うけれど。
(本作で度々名前の上がるグウィネス・パルトロウはワインスタインによる被害を告発している。本作の製作総指揮にブラッド・ピットが名を連ねているのは興味深い。彼らは元恋人同士だったので。)
(2023年洋画)