ロシアネガティブキャンペーン第二弾。
ウクライナのドンバス地方で、学校で物理を教えながら、自然に基づいた生活を妻と続けていたミコラ(パーベル・アルドシン)。その自給自足の生活は、取材に来たTV局のリポーターさえ呆れるほどのものだったが、ミコラは幸せであった。だが、2014年のある日、教えていた学校に行くとそこは封鎖されていて、不安を覚えたまま家に帰ると、妻がロシア兵と対峙していた。妻はその場でロシア兵に殺され、家は焼き払われた。ロシア軍はドンバス地方を占領せんとしたのだ。ドンバス戦争の始まりである。
復讐に燃えるミコラはウクライナ軍に入隊し、狙撃手としての訓練を受ける。自然のままに生きてきた自己を捨てたのだ。そして唯一無二の一流スナイパーとなり、ロシア兵を一撃一殺し続けるのであった。
「レイブン」とはワタリガラスのことである。これは、殺された妻が守り神としていたものだった。ミコラはレイブンをコードネームとして、亡き妻がお守りとして自分に彫ってくれた偶像を肌身離さず身につけて戦った。
狙撃手になるためのハードな訓練や、ウクライナ兵として戦闘の地に赴き狙撃手として活躍する様は、これが純粋なフィクションであれば、物語性に富み、戦闘シーンでは高揚し、手に汗握るものであると言ってもいい。しかしこれは実際に、「ウクライナでは「伝説の狙撃手」として英雄視され、敵対するロシアからは恐れられる実在のスナイパー、マイコラ・ボローニンが脚本に参加している」ということからも(出典:映画.com)、事実を織り交ぜたものだと言えよう。
事実と言えば、そう確かに、歴史的にはこのドンバス戦争を起点として、昨年来のロシア軍のウクライナ侵攻へと至っているのである。今回、この作品を観て本稿を書こうとした時に、少し驚き恐怖を覚えたことがある。これまでは他国の紛争に関する作品についてはその背景を多少なりとも調べてから書くことが常であったが、今回は地名から地理的要素から、調べずに書けてしまったことにである。つまりこれは現在進行形だ。この作品を鑑賞しながらも、正に連綿と続く戦いの歴史の只中に居るということなのだ。
作中、ある作戦で壊滅させたロシア兵の内の一人が、平和な頃に教え子だったイワンであったというくだりがある。その時わずかに動揺したミコラに上官が何事かと訊ねる。彼は教え子だったとミコラが答えると、上官はそれは彼が選んだ道だ、と諭すのだが、それに対してミコラはこう返す。俺も自分で選んだ道だ、と。
だが、その道を選ばざるを得なかった背景を考えると、そこに至る闇は果てしなく深いのである。
未体験ゾーンの映画たち2023で鑑賞。
(2023年洋画)