「想像していたよりも面白い」という評判を私が更に上書きしてしんぜよう。すっごく面白かった!
いやぁ、元々くだらないコメディで、それ以上でもそれ以下でも無いんだけと、「野球部あるある」の小ネタはほんの少しだけスベることもあるんだけど、そしてもちろん私は高校球児でさえ無いんだけど、次男が7歳の時から都合10年以上野球少年の母をしていた身としては、ちょっとしたシーンにも胸キュンである。
考えてみれば、高校生で硬式野球をやっている野球部員は、全員が甲子園を目指すのである。そしてもちろん、甲子園の土を踏む球児はほんの僅かしかいない。大抵の高校球児はそんなことは最初から判っている。でも、彼らはそうと知りながら高校生活のほとんど全てを部活に費やすのである。これは本当に驚くべきことである。
そしてどの運動部も、負けて引退する。勝って引退するのは、(例えば野球部なら)甲子園の優勝校唯一つである。
無理と判っていることに、理不尽に彩られた日常に、彼らは馬鹿馬鹿しい程愚直に取り組んでいくのだ。ワンパターンとさえ言える「伝統」に染まりつつ。
そうだ、この作品の本質は、もう正に高校野球部活動という伝統文化の伝達なのだ。
彼らはこの伝統文化を粛々と行い継承しつつ、最後の大会を終えたその時から、別のステージに急ぎ足で移行するのである。その切り替えはあまりにも潔い。当然この後の人生の方が長い訳だし、これまでしてきたことで「メシを食える」人なんて、甲子園に出場したメンバーよりも僅かなのだ。だけどそんなこと、判っているが特攻するのだ。これを若さと言わずになんと言おう。若さの成せる技である。
本作への賛辞として、つい最近日本中を感動させたあの言葉を贈りたい。「青春ってすごく密」。
(2022年邦画)