副題をつけるなら、「空手バカ一代」ならぬ「ボクシングバカ一代」。「格闘バカ一代」でも「リングバカ一代」でも良い。フットワークと拳を主に使う事がボクシングの定義だとすれば、「ボクシングバカ一代」よりも後者の方が相応しいかもしれない。ルール無用でただ殴る蹴る絞技を使う…ボクシングから闇の総合格闘技に転向したのだから。
ドクターからもトレーナーからも引退を勧告されたボクサーが、生まれて初めて他の(普通の)職に就こうとするも水が合わず、遂には闇の賭けファイトに身を落とすオハナシ。だが、彼にしてみれば、その選択は決して「身を落とし」た訳ではない。リングの上で闘うこと、それだけが、彼にとって唯一生きていると感じる瞬間なのだから。
正直に言うと、この展開自体はそれ程耳目を引くものではない。ありがちとさえ言っていい。だが、極限の肉体や、演技とは思えない鬼気迫る表情は、確かに観ている者の心に重いパンチをくだす。幼馴染との人間関係や恋人との馴れ初めや葛藤などは、良い部分だとは思うけれど、枝葉に過ぎない程だ。
生きる喜び。生きているということを実感する喜び。それがたとえイバラの道だとしても、「生きている」実感を得るためにギリギリまでのめり込もうとする決意。いや、表現が逆だ。ギリギリまでのめり込んで初めて、「生きている」実感を得られるということなのだ。
果たして人は、「生きててよかった」と思える瞬間が人生にどれほど巡ってくるものなのだろうか。それを見い出し積み重ねる永遠の旅路が、人生というものなのだろうか。そんなことを考えさせられる作品であった。
追記になるが、主演の楠木創太(木幡竜)の親友役のキングオブコメディ今野浩喜がとても良かった。そして彼の役のその後の人生や心のもち様を知りたいと思った。

(2022年邦画)