歌姫ジェニファー・ロペスとラブコメの帝王オーウェン・ウィルソンの共演。ラブコメの帝王と書いたが、これはあくまで私の印象であり、そもそもオーウェン・ウィルソンってそんなにラブコメに出演していたっけ?と思って調べたら、別にオーウェン・ウィルソンは沢山のラブコメに出演していた訳ではない。「ミッドナイト・イン・パリ」や「マイ・ファニー・レディ」のイメージが強かったので、これは本当に単なる印象だったのだ。素直に謝ります、ごめんなさい。
でも、私はオーウェン・ウィルソンにはラブコメの帝王になって欲しいと願っている。ヒュー・グラントなき今(ラブコメの帝王としてのポジションにいないというだけで「亡き」という意味ではありません)、ラブコメの王道にさりげない笑顔で座って収まりが良いのは、彼だという気がする。といっても彼もそこそこいい年だからなぁ。
作品の方であるが、とても面白かった。ジェニファー・ロペスが圧巻だったし。こういった本職が歌手の人(つまり役者ではない)が主演する作品は、一昔前のアイドル映画の危険性があった訳だけれど、そんな心配は全く無用である。「ハウス・オブ・グッチ」の時のレディ・ガガもそうだったが、そもそも圧倒的な存在感を持つ人は、演技の分野でも存在感を見せつけることができるのだ。
有り体に言ってしまえば、スーパースターと結婚する羽目になったオーウェン・ウィルソンの男女逆転版シンデレラストーリーなのだけれど、教え子(娘も含む)の数学大会のインサートもあったりして、展開が単調ではない。偶然と必然に導かれた恋のお話としても(緩い感じではあるが)ハートウォームな感じになる。あとは、ご時世なのかもしれないけれど、多様性がかなり尊重されている。
いやしかし、「ご時世」と言えばこれを抜きには語れない。…つまり、本作はSNS全盛の、ひょっとしたら生活の全てをSNSに乗っ取られていると言ってもいい人々の姿を描いているのがとても面白いんだな。若者の、或いはアメリカ人の現実的な姿というか。
どんな時代においても、進取の文明の利器は諸刃の剣である。そして本作ではそれがSNSや動画だったということ。だから、少し穿った見方をすると、SNSや動画でしか知らなかった世界をそういうのと無縁だった平凡なバツイチパパが実体験するとどうなる?という、実にエクスペリメンタルな話なのだ。みんな情報に支配されている。だけどホントに?それはみんななの?ということも合わせ技で。
更に言うと本作は、マジメちゃんでも時代遅れでもきちんと恋愛を成就できるという、情弱民にとっての救いの作品なのである。
(2022年洋画)