香港映画である。アンディ・ラウである。ルイス・クーである。
もうもうそれだけでも、「荒唐無稽」な香港映画に飢えていた者としては感涙モノである。で、画面に広がるタイトルを見て、驚いた。「掃毒2」と書いてあるのだ。「掃毒」と言えば、6年前に公開されたベニー・チャン監督の邦題「レクイエム 最後の銃弾」であり、まあ、「荒唐無稽」の極みだったが、本当に好きな作品だった。その「2」なんだ!「2」かよ!と、テンションマックスである。
だが、香港映画でよくあるように、「掃毒」と「掃毒2」はその展開に何の関係もない。監督ですら、本作は「掃毒」の監督ではなくハーマン・ヤウ監督である。キャストも被りはルイス・クーのみ。いや、だからどうだというのだ。どうこう言うのは、香港映画に対しては野暮というものなのだろう。
そして、香港映画にありがちと言えば、本作でもまた、「えっ!?そこまで…その人まで死んじゃう!?」という具合に、邦画では到底あり得ないような残酷な展開がある。しかし、実はエピローグがあって、そこには少し救われた気持ちになった。そして香港映画にありがちの真骨頂は、カーアクションを始めとしたアクションの凄さ。凄かった、もう凄かった。けど、これもありがちなんだけど、最後の方とかもう怒涛過ぎて、何が何だか、誰が誰だか、これは味方なのか?あるいは敵なのか?もしかしてただの通行人なのか?(それは無いけど)というカオス。無論このカオスが笑っちゃうほど好きなんだけど。あと、サム・リーやラム・ガートンが、えっ?という位の端役でカメオ出演しているのも嬉しい。
以下ネタバレなので、未見の方はご注意ください。
2004年、ティンことユー・シュンティン(アンディ・ラウ)は、自身のチンピラ稼業を恋人に愛想をつかされ出て行かれ、一方では麻薬取引に手を染める義兄弟、地蔵ことフォン(ルイス・クー)の仁義の処理を叔父貴から命じられる。麻薬だけには手を出すな、という組の掟を地蔵が破ったというのだ。叔父貴は正興(ジェンヘン)組の頭であり、20年来の義兄弟である地蔵を手にかけることは耐え難いことであったが、命令は絶対であった。やむを得ず組員の目の前で、地蔵の右手の3本の指を切り落とす。地蔵はその場で除名となり、ティンは地蔵を車で救急病院まで送り、切り落とした指を接合してもらうように地蔵に渡すのだが、地蔵はティンの目の前でその指をゴミ箱に投げ入れる。
別の場所。繁華街のよからぬクラブに警察の手入れが入る。麻薬取引の抜き打ち取り締まりだ。抵抗する客に、産休が明けて任務に戻ったばかりの婦警が刺され、絶命する。彼女の夫は同じ麻薬取締官のラム刑事(マイケル・ミウ)であり、以降、彼は男手一つで生まれたばかりの娘を育てることになる。
月日は流れ、2019年。
その間、ティンは組から足を洗い、猛勉強をして金融ブローカーへの道に進んだ。金融政策の講習で知り合った美しい弁護士ジャウ(カリーナ・ラム)と愛し合うようになり結婚する。高い学習能力と金融屋に不可欠な鋭い勘を用いて、ティンは仕事を成功させていき、やがて沢山の大企業を運営するようになり、巨額の富を築き上げるのだった。ジャウも弁護士としてティンの企業を支え、2人は愛し合うと同時にビジネスの重要なパートナーにもなり、完全無欠のカップルとなった。そう、子供ができないことを除いては。
地蔵…フォンは、正興組を追い出された後、独自に裏稼業を極める道を選んだ。麻薬の密売屋となったのだ。ビジネスは成功し、香港麻薬四天王と陰で言われる程になった。使い切れないほどの金を稼ぐフォン。彼が所有している豪華なヨットの中には、大金が積まれている。
ラム刑事が育て上げた娘は、小学校を卒業し、中学校に進学、やがて高校生になった。優しく賢い娘に成長した。今熱中しているのは、麻薬撲滅キャンペーンの啓蒙のための動画制作である。これをコンテストに出品するのだ。
ある日、ティンの元へ一通のエアメールが届いた。差出人は15年前別れたあの恋人。フィリピンからの便りである。そこには驚くべきことが書かれていた。彼女は今末期がんでもう余命がないのであるが、自分が死んだ後、一人息子のダニーの面倒を見て欲しい、と綴ってある。実は彼女はティンと別れた時に妊娠しており、ダニーは実はティンの息子だというのだ。ただ、ダニーは悪い友人たちとつきあっていて、それが故に今麻薬中毒者になっている、というのだ。
ティンは急ぎフィリピンへ飛ぶ。ダニーの行方を捜すと、彼は麻薬中毒者が集まるアヘン窟のような場所におり、追跡するもラリり過ぎて屋上から落ちて死んでしまう。
折しもフィリピンのTVでは、大統領の厳しい麻薬撲滅政策の宣言が放映されていた。
ティンの決意はそこで更に強固なものとなった。
ティンは香港から麻薬を一掃したいと強く願ったのだ。そしてそのために行動することにしたのだ。
ラム刑事の携帯に電話がかかってくる。アリという内偵者の男からで、それによると、今夜、黄金の三日月地帯からのブツで大きな取引があるというのだ。現場を押さえて麻薬売買の買い手と売り手を一網打尽にするチャンスである。ラム刑事はチームを準備した。それと同時に、警察の捜査本部にハッカーが侵入し、何者かが極秘事項である麻薬王の情報を入手したという事件が起こる。ハッカーは誰なのか?麻薬四天王の誰かか?それとも競合相手か?それによって何かが起こったという訳ではないが、不穏な動きである。
約束の時間と場所、ラム刑事たちが待機する中、アリの言った通り、取引は行われた。麻薬四天王の内の一人、アバスのブツである。アバスたち親玉は、取引現場ではなく、別の場所で買い手ボスと売り手ボスで状況を見守っている。正しくブツが見せられ、正しく金が引き渡されるかどうかの確認を「安全な」場所で確認するのだ。いよいよブツが渡される段になる。ラム刑事のチームが飛び出そうとする前に、取引場所に車列が突っ込み、銃声が響き渡る。何者か判らない集団が、取引を邪魔して買い手と売り手の双方を攻撃したのだ。激しい銃撃戦となる。そして、ブツを積んだトラックは、その素性の判らない狙撃犯たちによって持ち去られてしまった。
これは、麻薬王たちの間でも前代未聞の取引失敗となった。フォンは仲間内から、アバスのブツを襲撃したのはフォンではないか?と疑われる。警察にも事情聴取に呼ばれる。フォンの事情聴取後すぐ、警察署に、例の麻薬を積んだトラックが送り届けられる。何故?何のために?警察側にもあの晩の狙撃犯たちの行動の理由に皆目見当がつかない。ただ、狙撃犯の一人が重体ではあるものの生き残っており、彼の意識が回復するのを待つしかない。
当然のことながら、一連の不可解な出来事は、ティンによって実行されていた。麻薬王たちのデータのハッキング、アバスの取引の邪魔と麻薬の奪取およびそれを警察に届けること。ティンは狙撃の実働部隊は正興組の時の仲間に依頼して、これらを取り仕切っていたのだ。
フォンはアバスの縄張りを横取りしようと決意する。しかし、逆に自分の麻薬製造工場が2ヶ所も何者かに襲撃されてしまった。更に、アバスの遺体が発見された。背中一面に麻薬の注射器を刺され、急性中毒で絶命したのだ。傍には「売人の成れの果て」と書いた紙が1枚置いてあり、犯人が誰かは判らない(もちろんこれもティンの仕業であることは言わずもがなであるが)。
重体だった狙撃犯の意識が戻った。その知らせを受けて、ラム刑事は病院へ行く。だが、既にフォンの一味が彼を拘束しに病院に侵入していた。部下から写メで送られてきた病室の狙撃犯の写真を見て、フォンは全てを悟る。これは…正興組の時のティンの仲間だ。そして、正に男の身柄を拘束した時、ラム刑事が病院に到着し、そしてまたまたティンの仲間も医師に扮装して狙撃犯の奪回を図る。フォン側、ラム刑事側、ティン側…二転三転、誰が狙撃犯を確保できるのか?
病院での銃撃戦の後、狙撃犯を奪取できたのはティン側であった。ティンはヘリを用意し、すぐさま彼をブラジルへ逃がす。大量の謝礼金を持たせて。
ティンとフォンは競馬場で再開する。お互い馬主で自分の馬を出走させていたのだ。ティンは妻のジャウを同伴していた。ティンは、妻には自分の過去の話はしていないが、いかにもの風情のフォンを見て、ジャウは少なからず動揺している。ティンの馬は一代天騎、フォンの馬は地蔵菩薩という名前だった。レースはデッドヒートとなるが、最後に刺して一代天騎の勝利となる。だが、レース後、一代天騎は何者かに厩で前足を切断されてしまう。恐らくフォンの意趣返し、そして宣戦布告なのだ、とティンには判る。
叔父貴が亡くなった。組で盛大な葬儀が行われた。ティンはジャウを連れて参列することにし、そこで初めて自分の出自を明かす。ジャウは堂々としていた。葬式会場にはフォンも来ていて、そこで一触即発となる。ティンとフォンの本当の戦いはこれからなのだ。
家に戻ると、それまで気丈だったジャウが泣きながら告げる。間違えてティン宛にきた手紙を開けてしまい、ティンに隠し子…ダニーが居たことを知ってしまったのだ、と。そして自分が子供を産めない体だということを告白する。それなのに現実を告げずに占いにすがっていたのだ、と。男の子を授かるという占いだった。でも、実際に男の子…ダニーを授かったのは自分ではなくあなたの事だった。あなたは昔黒社会に居たことを隠していた。自分は子供が産めないことを隠していた。お互い隠し事をし続けていて、もう信頼関係は結べない、と。
ラム刑事の娘は、麻薬撲滅キャンペーンに応募した動画が大賞を取り、表彰される。だが、その直後、親友が麻薬でハイになってしまい、学校の窓から飛び降りて死んでしまう。親友の死に放心状態となった娘だったが、表彰式の会場で会った、キャンペーンのスポンサーであるティンの所に出向き、真の麻薬撲滅を直訴する。
ティンは麻薬四天王の解体をさらに加速する。No.1麻薬王を殺害した者に1億香港ドルを懸賞金として渡すと公言したのだ。アバスはもう死んでいないので、残り3人。内1人は殺され、1人は警察に自首をした。残るフォンは記者会見を開き、警察に24時間自分を保護して欲しいと訴える。ラム刑事のチームが担当だ。そして裏では部下にティンを殺害するよう指示を出す。
ティンとジャウは離婚することになった。弁護士の立ち合いの元、2人向き合って離婚届にサインをする。協議の会場を後にしたその時、ティムは一斉射撃される。フォンの部下がティムを殺そうと襲撃しに来たのだ。流れ弾に当たってジャウは死んでしまう。
今度こそ本当に…今度こそ自らの手で決着を付けるのだ。ティンは自ら銃に弾を込める。沢山のバレットを携え標的に向かう。
最終にして最高に破滅的なバトル。市街地で繰り広げられるカーチェイスは、警察車両も巻き込み、銃撃戦は弾丸の嵐だ。ラム刑事の部下アップルも撃たれて死んでしまった。同僚からプロポーズを受けていたのに。逃げ惑う人々の中、ティンとフォンの地下鉄の下りエスカレーターを使ってのカーチェイス、地下鉄の線路での対決…2人の一騎打ちの際(きわ)に追いついたラム刑事はフォンにこう言われる。ラム刑事、銃は一丁だが、俺たちは2人。どっちを撃つ?そしてティンとフォンは互いを相撃ちし、両者とも絶命する。無力感で天に銃を撃つラム刑事。
エピローグ。娘と一緒に街に出て、ATMでお金を引き出そうとするラム刑事は、残高を見て愕然とする。何の説明も無いが、ティムが相当の資金をラム刑事に託したものだと見て取れる。何故なら、「ジュンティン&ダニー・ユー 青少年更生施設」というものがその後設立されたからだ。

(2020年アジア映画)