2017年日本公開。リンゴ・ラム監督作品。
新作を映画館で鑑賞できなくなってから、配信系のアプリなどで旧作を観ることにしたのだが、どうも好みが偏っているようだ。別に誰が困る訳でもないので、このまま偏向を続けようと思い、アジア作品で公開時に鑑賞し損ねた物を観続けることを決意する。
本作「ワイルド・シティ」は、ルイス・クー×ショーン・ユーなのに何故日本公開時に鑑賞しなかったのか甚だ疑問だったのであるが、そうだ、私リンゴ・ラム監督って中華圏の監督の中ではそれ程(この場合は熱狂する程という意味)好きではなかったんだなぁ、と気づく。それに当時は恐らく他に観たい作品も沢山あって、未体験ゾーンの映画達まで到達できなかったのだろう。っていうか、2017年って横浜DeNAベイスターズがリーグ3位で日本シリーズまで行った年だよね?この年はなんか色々目まぐるしかったよなぁ。
マン(ルイス・クー)とチュン(ショーン・ユー)は義兄弟で、マンはこの義理の弟のしでかした不始末が原因で警官を辞め、今はナイトバーの店長をしている。チュンは的士(タクシー)の運転手だ。それぞれの立派な警察官になる夢、カーレーサーになる夢は、潰えて久しい。
ある日、マンが自分の店で酔い潰れた女を介抱して、義母と義弟チュンが住んでいるアパートまで連れ帰ったことから物語は始まった。女はユン(トン・リーヤー)と名乗り、資産家の男との結婚生活が上手くいっていないのか、悩みを抱えているようであった。だが、事はそんな単純な問題ではなかったのだ。ユンは何かを隠しており、その為良からぬ連中に身柄を狙われていた。ユンが隠し持っていたのはスーツケースに入った大量の金と金塊。そしてそれを巡って、恐ろしい裏社会の陰謀にマンとチュンは巻き込まれていくのだ。
カーチェイスが売りの本作であるが、そこについてはまあまあ。血が繋がっていなくとも固い契りを重んじる所を、マンとチュンとの関係、台湾マフィアの仲間同士の絆とをシンクロさせて描いている。それに対して、契りや絆や情にはほぼ重きを置かない冷酷な裏社会のインテリ共。
恐らく、オーラスの裁判所前の広場で、正義の女神が持つ秤が撃ち落とされて砕け散る描写がその事を表しているのだろう。正義なんてきっとどこかの場所にあるものではない。それはそれぞれの心の中にあるものだ。だが一方で、心の中に常に持つ正義を正しく行使できるかは、容易なことではないのである。

(2020年アジア映画)