「ホビット」を知らなくても何の問題もない。事実、私はあの一連の作品を読んだことも観たこともない(実際には学生時代にBFから「これ面白いから読んでみな」と言われて「指輪物語」を借りたことがあるのだが、あまりの大作に途中で挫折してしまった)。これは、近代史において最も残酷な史実のひとつである第一次世界大戦のその前後に、戦争に巻き込まれたイギリス人の若者の青春の物語なのである。
とはいえ、トールキンの伝記物であることは間違いないので、トールキンなる作家の概略だけはおさらいしておこう。
ジョン・ロナウド・ロウエル・トールキン。1892年イギリス生まれ。文学者。膨大な数のファンタジーを執筆しており、代表作は「ホビットの冒険」「指輪物語」等。バーミンガムのキング・エドワード高校からオックスフォード大学へ進学。その後同大学で教鞭を摂る。イギリスの著名な文学者C.S.ルイス、詩人のチャールズ・ウィリアムズらとも親交が深かった。
「文学者」と一括りに書いたが、彼は言語学者だと言っていいと思う。言語とそれが産み出すイマジネーションに天才を持ち、そのことが作品中でも彼の所属していたオックスフォード大での描写に散りばめられている。こういうバックボーンがあってこそ、後世に残る作品を書くことができたのだ。だがそのイマジネーションには、言語の才能だけに依らず、彼が実際に戦地で見聞きし体験したことも色濃く反映されている。古典と実世界の悲惨な経験の融合。ある意味、その時代だからこそ産み出された作品なのかもしれない。
トールキンは、早くに父を亡くし、牧師の配慮で田舎に越して母と弟の3人暮らしをしていたが、その母も12歳の時になくなってしまう。孤児となった兄弟は里子に出され、トールキンはその家で同じように里子にもらわれていた少女エディス・ブラット(リリー・コリンズ)と出会う(そのエディスとはやがて愛を育み生涯を共にすることになる)。
学業優秀であったトールキンは、そこからキング・エドワード高校へ進学し、更にはオックスフォード大学へ進学した。このキング・エドワード高校時代に、トールキンは3人の若者たちと出会い終生の友情を得る。校長の息子のロバート・ギルソン(パトリック・ギブソン)、詩の造作に長けたジェフリー・スミス(アンソニー・ボイル)、音楽の才能があるクリストファー・ワイズマン(トム・グリン=カーニー)だ。この部分は本作の一つの肝である。イギリスでは中世の時代から、固い絆を結んだ者同士で結社を作ることがあり、常に行動を共にし、その誓いは終生守られる。彼ら4人組は主にティー・クラブのバロウでお茶を飲みつつ議論を交わし、その結社を「T.C.B.S」と名付け(ティー・クラブとバロヴィアン・ソサエティの意)、高校を卒業するまであらゆる行動を共にした。卒業してからも各々の進学先も含めて、友情の軌跡は続く。
だが、大学在学中に開戦した第一次世界大戦で、若者たちは皆戦場に駆り出され、トルーキンもまた厳しい戦地へと赴くのであった。4人の内、ジェフリー・スミスはソンムの戦いで命を落とし、ロバート・ギルソンもまた戦死する。トルーキン自身も戦地で塹壕熱に冒され生死の境を彷徨う。トルーキンは熱に浮かされながら、様々な幻影を見聞きし、それが彼のイマジネーションの産物に多大な影響を与えた。
こう書いてみると、彼の生涯で体験して来たことが、彼の能力と同じようなレベルで影響を与えているのが判る。だから、トールキンの作品を読んで(または観て)いた方が、数段本作の面白さは上だと思うのだ。しかし、冒頭の繰り返しになるが、読んでいない私であっても、彼の生い立ち、友情、恋…に本作で触れるにあたって、青春のマスターピースとは格の如し、と思う心持ちになるのである。だから、私は本作を、青春映画の大作、と敢えて言おう。

トールキンを演じたのはニコラス・ホルト。
(2019年洋画)
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