設定はヒッチコックの「裏窓」である。主人公は車椅子の身であり、退屈しのぎにと恋人が与えてくれた双眼鏡で、アパートの窓から付近の家や街路を覗き見するという設定は同じ。だが、覗き見てしまったものに対して正義にかられて行動を起こすなどという方向性ではない。
双眼鏡で覗き見をする主人公はそもそもがクズなのである。彼は偶然覗き見た向かいのアパートの一室で起こった出来事に起因する「人生最悪のチャンス」を生かす事を思いつくのだが、それはクズにしかできない思いつきであり、彼が車椅子の生活を余儀なくされたのだって、他人に金を借りてその金を元手にヤクの密売をしてがっぽり稼ごう、と行動したその結果に他ならない。じゃ今の生活では不満でがっぽり稼ごう、と思ったその「今の生活」だって、何で生計を立てていたかというと、空き巣稼業なのである。もう何をか言わんや。単なる犯罪者が別の犯罪に手を染め、また更に別の犯罪を犯す、という犯罪から犯罪への無限ループ。いや、主人公だけではない。はっきり言って登場人物ほぼ全員がクズなのである。この街では息をする場所全てが犯罪の上に成り立っているのだ。
この街…舞台は南アフリカのケープフラッツである。こういった前評判も劇場予告編も一切知らない(し調べない)作品では、作品を鑑賞しながら、これはどこの国(街)の設定かな、どんな背景があるのかな、などと言語や景色も含めて想像していくのが楽しみの一つなのであるが、最初私はここは南米かな?ベネズエラかな?と思っていた。息をするように麻薬が取引されている日常や街路の木々、建物の作りなどに加えて、悪徳警官がラミレス監督に感じが似ていたからそう思ったのだけれど(ラミレス監督ホントごめんなさい)。だが、舞台は南アフリカの犯罪都市であった。
怖いよー、ホント。子供達が路上で遊ぶその日常の中で、麻薬取引、盗み、殺人などが当たり前に頻発し、警官はほぼほぼ悪徳警官。だから感覚が麻痺してしまい、主人公に対して「頑張れ!」と思ってしまったりするのであるが、いやいや、頑張れ!ではない。もっとまともに生きようよ、と思う。ラストの小規模どんでん返しはそこそこ面白く、そこそこ痛快なのだけれど、あほちゃうか、という気がしないでもない。その上どんでん返しが起きたからといって、今後主人公ランダルと恋人パムの生活が上向くとも思えない。だから何、な話なのである。
本作はファンタジア映画祭で最優秀監督賞を受賞している。
(2019年洋画)