現代美術家の雄、アイ・ウェイウェイが、現地を巡って撮影したドキュメンタリー。今、全世界には、貧困・戦争・宗教・政治的対立・環境問題など、様々な理由で故郷を追われ、故国さえ追われて世界を彷徨う難民が、6500万人以上いると言われている。そしてその数は年々増加し続け、難民たちの中にはそれぞれ20年〜30年以上も流浪の生活を送っている者もいる。人生の大半を難民として生きている者もいる。
難民を作らないような環境作りをし、難民を受け入れる体制を整える…ことはそんな簡単な話ではない。リスクを秤にかけて、難民の受け入れを拒絶する国は年々増えている。国境は固く閉ざされ、難民キャンプは劣悪な環境の中、常に満杯の状態である。
その中でアイ・ウェイウェイは、これらの各地を回ってその姿をカメラに収めた。冒頭はギリシャの海岸だ。救命胴衣を身につけて中型のボートに溢れんばかりに乗っている難民たち。夜の海岸、昼の海岸、昼夜を問わず異国から辿り着いて来る。ギリシャはヨーロッパ諸国の中で、難民の寄る辺になっている。ここから難民たちは、ヨーロッパ各国内へ移動して行こうとしているのだ。だが、難民の受け入れを宣言しているドイツなどは本当に稀な国で、近年ではこれまで開かれていたギリシャとマケドニアの国境、イタリアの国境などが封鎖されている。命からがらギリシャの海岸に辿り着き、這々の体でそこから国境に移動したとしても、閉ざされた国境に愕然とする難民をたちは少なくない。
シリア難民、ガザに封鎖されるパレスチナ人、ロヒンギャ…アメリカとメキシコの国境…。多くの地で多くの難民たちが存在し、肩を寄せ合う。人道的配慮の理想と現実は折り合わない。
現代社会で現実に起こっている出来事を学ぶには、大変貴重な作品だと思う。知識の拡充を図ることができる。だが、ドローンを駆使した映像は、あまりに美し過ぎて、あまりに芸術の域に入り込み過ぎて、まるで1本の環境ビデオのようだ。こんな環境ビデオのような作りで、難民暮らしの悲惨さとか理不尽さとかは伝わるのだろうか?と疑問に思う。決して興味本位で悲劇的な要素を見たい訳ではない。だが、美し過ぎる…あまりにも美し過ぎるではないか。
力強く生き抜く様を描いているそれが美しい、などというのとも異なる。ともかく映像が美し過ぎるのである。お綺麗な映像に淡々とした解説。これはどこか遠い国の出来事で(いや事実そうなのだが)、自分ごととしては捉えられない気持ちになってしまう。
ノンフィクションの作りがここまで空々しい程美しいのであれば、悲惨なフィクションの方が現実味を帯びて迫ってくるような気がする、というのは言い過ぎなのであろうか。