
最初は深刻な人間ドラマかと思っていた。都会の大学を出た息子が、父親が村長をしている村に戻ってくる。息子の本意ではない。全て父親が敷いたレール。反抗心を抱きながら暮らす日々。あまつさえ父親は、息子に父親が選んだ町の女と結婚させて、一生村で、父親の側で暮らさせる事を目論んでいる。息子には村に恋人がいるのに。そしてその恋人はなんと妊娠したというのだ。
というオープニングから、息子が誤って村の男を殺めてしまう所まで、そしてそれを隠蔽して恋人と逃げようとする所まで、本当に深刻な人間ドラマだと信じ込んでいた。そして実際に、人の業を描く人間ドラマではあるのだけれど、…ちゃうねん、ちゃうねん。様々な登場人物の様々な偶然と必然が重なって、コミカルでさえある。いやー、面白かった!

わずか数日間に起こったドタバタ劇を、時系列と登場人物を複雑に前後させながら描き切る手法は退屈をさせない。本筋は息子とその恋人の話かと思っていたら、焼死体の主が人違いと知りながら、苦悩する父親がメインなのである。父親の立場と村長の立場とが入り乱れて、最早修復不能なのである。最初はなんの変哲も無い田舎の頑固な村長のオヤジ、に見えていた父親が、段々と息子を真に愛する一人の非力な父親に見えてくるのが凄い。愛ゆえに仕出かした事が、愛ゆえに取り返しがつかなくなってくる。その様が可笑しくも切ない。
中国映画らしいといえばあまりに中国映画らしい展開なのだが、最近こういうのをあまり観ていなかったので新鮮に感じたなぁ!

だが一方で、本作では女性が偽悪的に描かれているような気がしてならない。弱く、蹂躙されているように見せかけて、女性のしたたかさ、計算高さ、心の奥底に潜む悪魔的な願望を。どことなく愚かに描かれている男性陣に比べると、偽悪的に表現しているように思える。ちょっと三文芝居を彷彿とさせる程に。世の中の事象は全て、命運を握って手綱をさばいているのは、本当は女なのだと言わんばかりに。そういう点では少し古典的な展開ではあった。

古典的な、と書いてしまったが、本作の監督シン・ユークンは中国ニューウェーブの代表的な監督らしい(と言っても本作が初の監督作品)。本国でも公開されるとインディペンデント系では稀有なヒットを叩き出したという。色々な映画館がクローズされてしまっている今日、中国のこうした作品に出会える機会はなかなか無いので、貴重な体験をさせてもらった。
(2016年に観たアジア映画)