
メキシコでは年間1万7000人もの人々が、麻薬絡みで殺害されているという。この麻薬戦争のただ中、麻薬カルテルに汚染された地域を、カルテルに対抗して組織された自警団を通して生々しく描く。メキシコシティから1000km超の場所にある、カルテルの根城であるメキシコのミチョアカン州と、ボーダー(国境)近くでカルテルの流入が蔓延しているアメリカのアリゾナ国境地帯とで活動する自警団を各々の視点から描いている。

ミチョアカン州の自警団は、カルテル「テンプル騎士団」によって家族や財産を町ごと奪われた人々の手に町を奪い戻す為の自警団であり、アリゾナ国境自警団はカルテルによる移民や麻薬の進入を防ぐ水際対策の自警団である。ミチョアカンの自警団のカリスマ的リーダーは医師のホセ・マヌエル・ミレレスであり、アリゾナの自警団ではティム・”ネイラー”フォーリーが取材を受けている。

ドキュメンタリーのドラマ性とはかくありなん。まるで最初からストーリーがあって、それを脚色したかのようなドラマ性。そして又、「ハート・ロッカー」の監督キャスリン・ビグローが製作総指揮をとったというだけあって、ハードでタフな作品である。ここにも私が本当には知らなかった世界が。そしてこの作品でのドラマ性とは、単に想像を超えた残虐行為を白日の下に晒すだけでなく、イケイケドンドンで希望の光が見えてきそうなところを、それぞれの立場や政治的な背景による別展開が控えていて、急速に想像とは違った展開となる点に表れている。正に「正義が揺らいでも 悪は揺らがない」のコピーのままに、しみじみとその言葉を噛み締めてしまう展開となるのだ。

私が本当には知らなかった世界があり、私が本当には知らなかった悪が蔓延っている。世界の広さと人を狂気に駆り立てる麻薬の恐ろしさとを、頭に叩き込まれる作品となった。

出張の晩にシネマート心斎橋にて鑑賞。(2016年に観た洋画)