
難解だった。いや、大きなテーマとか、訴求点とかは解るんだけど、誰もハッピーにならない作品はキム・ギドクの十八番(おはこ)なのでそれはそれでいいんだけど、なんというか、もどかしいというか。私怨と大義のごった煮。為政者と虐げられる民、という構図よりも、私は強く感じてしまった…サラリーマンの悲哀を。大きな話なのに、身近な小さなものを想起してしまうので、そこがもどかしさを感じる点なのかも。
女子高生のミンジュが殺された。屈強な男達の集団により。このショッキングな冒頭のシーンから始まる本作。

場面が変わり、明るい韓国のレストラン。恋人と食事を楽しむ若い男。どうやら最近昇進を果たしたようで、仕事も私生活も順風満帆といった体である。
しかし、恋人と別れた夜道で、男は何者かに殴られ拉致される。運び込まれたのは、怪しい私設軍隊のアジトのような所。そこで男は拷問を受け、ある告白文を書かされる。あの日、5月9日に何が起き、何をしたのかを。
そして、彼だけでなく、当時「あの事」に関わっていた男達が順番に、同じ集団に拉致され、拷問を受け、告白文を書かされることになるのだった。

「群像劇」と銘打ってあるのだが、拉致される方よりも、拉致する方のパーソナリティーに現代韓国の抱える問題を重ねている「群像劇」である。しかし、大元となるのはもちろん拉致される方が「あの日した事」なのであって、何故ミンジュを殺したのか?という理由の部分が置き去りにされ、ただ盲目的に命令に従っただけなのだという点が、最も恐ろしい現代韓国の抱える問題なのであろう。


そして最初に拉致・拷問され、謎の集団の正体を暴こうと試みるキム・ヨンミンが、ラストは涙・鼻水だらけの熱演で、この役も含めて8役をこなした役者魂は凄まじかった。

(2016年に観たアジア映画)