こういう映画を五臓六腑に染み渡る映画、というのか。ハリウッド的な派手などんぱちも、アクションも、そう沢山ある訳ではない。ただ、刑務所の中の生活を描くのみ。
しかし、その描かれ方が、とてもリアルで一方でファンタジーで、とてもいい。とあるフランスの刑務所の中で「コルシカ」と「アラブ」に派閥が分かれる所、どこに所属するかによって、守り守られる立場が明確になること(例え囚人でなくても、看守であっても)。「調達係り」という非オフィシャルなものや「配膳係り」というオフィシャルな係りなどが派閥によって分担され、「配膳係り」になると世の中(刑務所内の、という意味だが)全ての情報に通じることができること。色々な“塀の中の掟”が散りばめられていて興味深く、又、主人公のアラブ人の19歳のマリクが、6年の刑期の中で揉まれて少年から男となっていく様が丁寧に描かれている。
マリクが出会った人物ごとにチャプターに分かれているが、チャプターの境はそれほど厳密ではない。まあ、出会いと言ってもそこはそれ塀の中なので。たまに外出許可による束の間の外の世界があるものの、9時から17時など1日にも満たない。だがしかし、塀の中の派閥と外での主に裏稼業の派閥は密接に関わっており、ボスともなれば塀の中から外へ向かってたちどころに指示ができるのだ。
少しネタバレです。
6年の刑期で刑務所に入ってきたアラブ少年マリクが看守から身体検査をされる所から物語は始まる。もともと孤児であり孤独なマリクは、密やかに、誰とも交わらず生活しようとしていたが、服役者の中のコルシカ派のボス、セザールに目をつけられ、意に染まぬ刑務所内での殺人を請け負わされ、そのままコルシカ派の使い走りとしていいように使われていく(勿論コルシカ派から守られもするのだが)。
初めての殺人で、灰色の刑務所の一室に飛び散る血の鮮烈さ。今から殺す男との数分の会話の中で、マリクは書物を読む大切さを知り、自ら刑務所内で読み書きを学び、アラブ語と同時にコルシカ語にも堪能になる。殺した男は後々にも度々マリクの幻想の中に出てきては、マリクを苦しめたり、マリクに啓示を与えたりする存在となる。
やがて、刑務所内で生き抜く術を覚えたマリクは、アラブ人なのにコルシカ派、という、アンビバレントな存在で賢く立ち回り、セザールの用向きを足すために時々一時外出しながらも、自分の内外での基盤を確立していくのだ。
観に行った日は満席で補助席が出る賑わいでした。カンヌで審査員特別賞に輝き、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた作品(日本でのロードショー公開が今年だったのでカテゴリーの分類分けは便宜上「2012年洋画」にしてあります)。静かで重たくてしっかりしていて、そして非常に衝撃的な作品。人間の血であっても、予言に基づいて車の前に飛び出してきてはねられた鹿の血であってもどちらでも、血は血として変わらず赤く、それが暗い刑期の日々にコントラストとなっていつまでも目に残るのです。
(2012年洋画)