
しみじみと、そして甚だ身につまされるオハナシでした。原題は「GOOD」。ただ、善い、というよりも、普通の、「ORDINARY」という感じだった。
たまたま、人生を過ごした時期がナチスドイツ台頭の時期だったからこうなってしまっただけの主人公。ジョン・ハルダー(ヴィゴ・モーテンセン)。ただ、普通に生きて、普通に教鞭をとり、地味な市井の民として生きて行きたかった彼なのに、結局妻子を捨て、親を捨て、親友も捨てることとなってしまった。善いだけでは生きられず、善いだけでは済まされない。
日常的な風景として、兄弟喧嘩の喧騒、介護の必要な母親の嬌声、現実逃避をしたくてピアノに没頭する妻…それに対処しようと必死になって、ばたばたの日常生活を送るジョンの姿が身につまされる。毎日毎日が、そりゃもう戦争だもの…家庭を切り盛りして仕事を続けて自分の身分保障もしていくってことは。単純に、ナチスドイツ関係なく、仕事と家庭と友情と愛情と…という物語に置き換えてみれば、本当に自分自身にふりかかってもおかしくないことだ。
しかし、時代の背景が、普通の善き人であった彼と彼の周りの人生を変えて行く。普通にしているだけなのに、善き行動をいつでもとれる人、とこれまで自分自身思っていたはずなのに。結局は、何をどうしても、ナチスの波に飲み込まれて、やがて一介の文学者が、ナチス親衛隊大尉にまでなってしまう。

もう引き返せない、自責の念が浮かぶ度に、頭の中音楽の幻想がまざまざと浮かぶ所なども、映画的でとても良い。私にとって、身につまされる、という意味でも、非常な秀作。
(2012年洋画)