白い狂気の果て、黒い狂気に昇華する。ナタリー・ポートマンの熱演、ダーレン・アロノフスキーの手腕、特に、同じ狂気でも「ファウンテン 永遠に続く愛」などで見せた、あっちの方に行っちゃっていたのか?というダーレン・アロノフスキーの狂気が、ちゃんとした狂気になって帰ってきてくれた、という喜びで満たされた作品。
バレリーナのニナ(ナタリー・ポートマン)は、才能はあるもののそれは技術的なものに過ぎず、魂の露呈のような演目が苦手であった。次の公演「白鳥の湖」のプリマになるためには、優等生的な白鳥は踊れても、官能的な黒鳥は踊ることができない。それは、師のトーマス(ヴァンサン・カッセル)にも指摘されている。しかし、ニナは夢であった「白鳥の湖」のプリマ役をどうしても手に入れたい。自分を身ごもったことによってバレエを諦めた母エリカ(バーバラ・ハーシー)の期待に応えるためにも、自分自身の人生のためにも。
だが、一度は手に入れた主役の座も、その「黒鳥が踊れない」という致命的な欠点のため、立場が危うくなってくる。官能的で奔放な新人バレリーナリリー(ミラ・クニス)が入団してきたことにより、更にその地位は脅かされる。師としてだけでなく、恋人としてもそばにいたトーマスも、まねでリリーに惹かれているかのよう。
次第にニナの精神は狂気を来たす。自分は本番の舞台でプリマを演じられるのか?自分の恋の行く末は?いや、それより、私って、私って、何者なの?どこから来て、どこへ行くの…?
母娘のせめぎ合い、自分の弱さとの折り合い、どうやってもなりたい自分にに追いつけない虚しさ。娘時代を過ごした人なら多かれ少なかれ知っている心の闇を描いた作品としても素晴らしいと思う。
(2011年洋画)