
いつも心に染み入る作品を作るダルデンヌ兄弟の作品だから、襟を正して、心して観に行きました。
社会の中で、常に弱者である子ども。その子どもの中でも極め付けに弱い立場で生きる子どもに視点を置いた作品です。
色々と思う所はありますが、確かにフランスは成熟した社会なのだと思う。制度として色々整っていて、選択できる、という部分が。しかし、結局は、人の心根がどうであるか、ということに、子供の福祉の未来はかかっていくのだよなぁ…。

少しネタバレです。
冒頭、施設から逃げ出そうと激しく職員に抵抗する少年の描写から作品は始まる。少年はもうすぐ12歳になるシリル(トマ・ドレ)。「僕の自転車が…」とか何とか叫んでいる。この時点ではまだよく何のことか判らない。職員の譲歩により、施設の電話を借りて電話をかけるも相手先は不在のまま、シリルの外へ出たい欲求は最大限となる。
その内、シリルは職員達の目を盗み、学校に行くフリをして、バスを乗り継いである場所に向かう。そこはアパートの一室。シリルは空き部屋となったその一室のドアを無我夢中で叩く。
この時までに、私には、シリルが母を亡くし、実の父親にも見捨てられて孤児の施設に入れられた子どもなのだと知る。しかし、シリル自身は父親に捨てられたなどと思っていない。いつか、一段落したら父親は自分の事を迎えに来てくれるものだ、と思っている。そして、元の住まいで元通り父子の生活をするのだ、と。
だから、シリルは信じない。父親がそのアパートを引っ越して、息子の愛車だった自転車を売り払って、綺麗さっぱり息子の事を忘れて生活しているなんて…。
施設の職員は、アパートまでシリルを追いかけてくる。そして、シリルに現実を教えるために、管理人に頼んで空き家となったアパートの一室をシリルに見せる。そこに父との生活の痕跡はなく、自分のものだった自転車も存在していなかった。
激しく失望するシリル。落胆したまま施設に戻るが、数日後、(そのやりとりがあったアパートの1階の歯医者で)診療待ちをしていた女性サマンサ(セシル・ドゥ・フランス)が、事の顛末を気にかけて、シリルの自転車を探して取り戻してくれた。
サマンサが自転車を届けて施設を辞去する時、シリルは件の自転車に乗ってサマンサの車を追いかけてきた。「週末だけ僕の里親になってくれない?」
サマンサは逡巡するが、週末里親制度を利用して、シリルの週末の里親となり、美容院を開業している自宅で週末はシリルと過ごすことにする。細かな生活習慣で衝突したりするが、段々と心を通わせていくシリルとサマンサの二人。しかし一方で、綺麗事だけでない、見事な現実的な描写がなされていく。サマンサの恋人は、二人の生活にシリルが割って入ることを良しとせず、恋人同士が破局を迎える所、子供は天使のような存在ではなく、打算的で気分屋な存在であることを示す、地元の不良たちとの馴れ初め、等。
シリルは、自分が父親に捨てられた、という現実をなかなか受け止められず、遂には自転車の販売履歴を辿って、父親の勤務地を突き止める。小さなレストランの厨房、父親(ジェレミー・レニエ)は情婦の紹介で、そこでコックとして働いていた。そして、シリルといつか生活を立て直す、という気持ちなんかさらさらなく、その日を気ままに生きていこうと思っていたため、シリルの存在ははっきり言って邪魔であった。
やがて、くすぐったいような、週末のフツーの家庭の生活にも慣れてきた頃、蛇の道は蛇、というか、同じ臭いを嗅ぎ付け、地元の不良がシリルに目を付ける。そして、その中のボスが、シリルを強盗の道へと誘うのだ。一回だけ、これ一回だけ、と、犯罪に手を染めるシリル。そしてそこで得たお金を父親に持っていくが(「お父さん、このお金があれば一緒に暮らせるよね?」という意味も込めて)、父親に殴られ、縁を切られ…。
愛情に飢えている、切実なる子どもの姿。愛情を提供するも、報われない善意。シリルのひりひりとした気持ちと同様に、サマンサのひりひりとした気持ちも、圧倒的な力を持って胸に迫る。又、これはある意味「赦し」の意味を問う作品でもあり、様々な立場の大人と子どもが、どのように人を「赦し」て、どのように誰から「赦され」ていくのか、ということを、深く考えさせられる、自問自答の作品なのである。

一口メモ的に…。
父親役のジェレミー・レニエは、ダルデンヌ作品では常連の名優。「イゴールの約束」から始まり、「ある子供」や「ロルナの祈り」、そしてこの「少年と自転車」に出演している。寂れたやけっぱちな痩せっぽちの労働者風のイイ男…って、ちょっと意味不明かもしれないけど、そんな感じ。役柄にさもありなん、と思わせる巧みさ。
サマンサ役のセシル・ドゥ・フランスは、「スパニッシュ・アパートメント」に出演するなど、フランスで活躍する女優。今回、自分でも気づかなかった母性に対するとまどいとその発露とが、とても良かった。
ダルデンヌ兄弟は、日本で開催されたシンポジウムで「育児放棄された子ども」のシンポジウムを聴いてこの作品の着想を得た、という。この「少年と自転車」は、第64回カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞。
まあ、とにかく、ダルデンヌ兄弟の作品にはハズレがない。そして、今回、少年の上着の赤い色をはじめ、暗い森の色、など、色彩がフランス映画らしくとても美しくて良かった!